システムについて考えること
かつて、蒸気タービン発電機を製造する会社で働いていたことがある。当時の組織なので今がどうなのかは全く知らないけれど、タービン、制御、発電機、それから全体のコントロールシステム、のそれぞれが別の部署で設計、製造されていた。
タービン屋さん:蒸気タービンを設計する部隊。例えば、全体の効率計算といったところから、タービンの Engineering for Manufacturing までを担当。流体力学や熱力学、材料力学といった機械工学専門のエンジニア集団。
制御屋さん:タービンを稼働する制御弁を設計する部隊。制御弁の機械的な設計から、コントロールシステムとのやり取りの仕様決定あたりまで幅広く。制御工学が中心のエンジニア集団。
発電機屋さん:タービンと直結されている発電機の設計する部隊。発電機の基本設計から Engineering for Manufacturing まで。どちらかというと、Engineering for Manufacturing の占める割合が大きいが、電気工学、材料工学も必要とされる。
コントロールシステム屋さん:全体の制御システムを設計するチーム。いわゆる Software Development Engineer というよりは、システムインテグレーター寄りな感じ。
私は中途入社で色んなチームを6か月単位でローテーションさせてもらったのだが、「誰が全体像を描いてるんだろう?」というのが、当時不思議に思っていたことだった。タービン屋さんが全体を主導していることが多いのだけれども、結果としてコントロールシステムのポテンシャルを引き出せていないような気がしていたし、一方でコントロールシステム屋さんは全体を率いるには、全体像の理解が欠如していた印象だった。
Thinking in Systems という本を読んでいて、ふとあの頃のことを思い出した。今自分が考えていることにつながるメッセージがそこかしこにあったのだけれど、そのなかで最終章に紹介されている「システムの世界で生きるための xx 箇条」のタイトルだけ紹介する。もし興味を惹かれたら、ぜひ本を読んでみてください。ちなみにそれぞれの下に書かれている日本語は私の勝手な意訳。
- Get the beat of the system
その対象をコントロールしているシステムを理解しよう - Expose your mental models to the light of day
自分の中にあるシステムのモデル(対象について考えるときに当てはめる考え方)を描きだそう - Honor, respect, and distribute information
情報の流れがシステムの挙動を左右する。意識的な情報の伝達を心がけよう - Use language with care and enrich it with systems concepts
考えは言語化することで伝わり、影響する。言語化に注意を払おう - Pay attention to what is important, not just what is quantifiable
定量化できるパラメータに注目するのではなく、システムにとって大事なことに目を向けよう(つまり、観測、計測に先立って何が大事なのかを考えよう) - Make feedback policies for feedback systems
正しいシステム設計は、自分の意図とシステムのインセンティブが同じ方向に向いている設計である。システムが独自に軌道修正するようなフィードバックの仕組みを作ろう。 - Go for the good of the whole
全体にとって良い影響がある場所に集中しよう - Listen to the wisdom of the system
今そこにあるシステム(仕組み)をきちんと理解してから、その改善や入れ替えを考えよう。 - Locate responsibilities in the system
現存するシステムを理解するときには、何がシステムを動かしているのかを理解しよう。 - Stay humble – stay a learner
謙虚に学び続けよう - Celebrate complexity
複雑であることを喜んで受け入れよう - Expand time horizons
短期間の利益を考えるのではなく、長期間で考えよう - Defy the disciplines
自分の専門外に立ち向かっていこう - Expand the boundary of caring
自分の範囲だけを考えるのではなく、視座を高めよう。 - Don’t erode the goal of goodness
信念を曲げないで立ち向かおう
ちなみに、私が今いる会社には System Architecture というグループがいて、ここには System Architects たちが部門を横断するシステムの設計を主導している。今、あの会社はどうなってるんだろう。