サラリーキャップに関する考え

NFLのサラリーキャップに関するニュースをよく目にするので考えてみます。

サラリーキャップは各チームが選手の給与として使用できる最大の金額を、毎年規定するものである。フリーエージェント制による選手の年棒の高騰を抑え、全チームが平等な条件で毎年戦えることを目的とし1994年から採用された。


各シーズン、リーグ総収入の一定の割合(その年によって変わるが約63%)が選手の総サラリー額として割り当てられる。これをNFLのチーム数である32で割ったものが、その年のサラリーキャップ額となる。このリーグ総収入とは主にプレシーズン、レギュラーシーズン、ポストシーズンでの入場料収入、全国放送のテレビとラジオの放送権料、マーチャンダイズ収入らからくるもので、32チーム全てに平等に分配される金額である。実際のサラリーキャップ額はシーズン終了後NFL選手協会とリーグとが共同で決定する。ちなみに、2004シーズンのサラリーキャップ額は1チーム$80,582,000である。

NFL Japanより


サラリーキャップは、2010年シーズンから廃止される見通しであると報道されています。素人目には、戦力の均衡化を図る素晴らしいシステムに思える、このサラリーキャップが何故廃止される方向で話が進められているのかと思い、少し調べてみました。


サラリーキャップの良い点と悪い点を、考え付くものを挙げてみます。


良い点


1.球団オーナーの支出を毎年、一定額に抑えられること。(球団経営への利点)

2.人気のないチーム、球団収入の少ないチームにも、その他のチームと対等の権利が与えられること。(フットボールファンへの利点)


悪い点


1.球団収入の多いチームは、経営側が利益を独占できてしまう。(選手側の不満)

2.契約のやり方によって、抜け道を見つけることが可能であること。(コミッショナー側の不満)


良い点の一つ目は、経営者から見る利点です。NFLは放映権、グッズ販売、肖像権といったものは、リーグが管理し収入を全チームに平等に振り分けるシステムをとっていますが、それ以外の収入、例えば観客収入の一部、ローカルのスポンサー収入、と言ったものは各球団の収入になります。一定の自由度が無ければ、各球団が経営努力を怠る可能性がある、という理由でしょう。ただ、各球団を比べると、全米で人気の球団とローカルで人気の球団とは、やはり収入規模が異なります。(参照。巨人とオリックスを比べるようなものでしょうか。)


結果として、人気球団は収入に対する支出の割合が抑えられる(人気球団ほどコストがかかるとも思いますが。)、経営者は利益を独占できる、と言う構図になります。これは、球団経営側の利点と言えると思います。


二つ目は多くの人がサラリーキャップ制度に賛成する理由だと思います。実際に、球団売り上げの高くないIndianapolis Coltsが過去十年間の勝利数が全チームで一番、と言うようなことが起こっています。たいていの議論は、この点が強調されて、だからこの制度には賛成、となっている気がします。


対して、悪い点。悪い点の一つ目は、良い点の一つ目を選手側から見たものです。経営側の利益が大きくなる、ということはつまり選手の収入が抑えられている、と言う風にも言える、と言うことです。


二つ目にあげたものは、サラリーキャップの悪い点、とは完全には言えないかもしれませんが、制度には結局抜け道がある、ということです。詳しくはどなたかが書いているでしょうから、そちらにお任せします。


つまり、選手側と経営者側(人気球団)は、完全に対立する利害関係にあると言うことになってしまいます。この、二者が協定に関する交渉を行うわけだから、交渉が決裂してしまうのは当然のようにも思われます。かくして、来年度のサラリーキャップ制度の協定は締結されないまま期限が来てしまい、サラリーキャップの無いシーズンへ突入と言うことになりました。


ただ、戦力の均衡という、リーグの魅力を両者は理解しているので、選手の移籍やフリーエージェントに関しては、成績下位チームに有利なようにルールが設定されるようです。


私は、サラリーキャップ制度が完全な制度だとは思いませんが、基本的なコンセプトはリーグを盛り上げる上で良いものだと思います。サラリーキャップはリーグ全体で一つになってNFLを盛り上げる、という協力的な制度だと思います。一方で、この制度をなくすことは各球団が個々の最善に向けて動く、対立的な制度ではないでしょうか。論理が飛躍しすぎかもしれませんが、NFLの収入というパイを大きくする戦略と、一定のパイから各自の収入を大きくする戦略、の違いに見えます。(この本の内容に影響されていますが。。。)


今後数年の戦力の推移とNFL全体の収入は、この決定を検証する興味深いデータになると思います。

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(1.26.2010 追記) この記事を読まれた方から、コメントいただきました。私の認識は的を得ているものではありませんでしたので、その点を追記します。詳しい説明は、Packer Zoneさんの記事に書かれておりますが、以下の点を訂正いたします。

3/4までに労使協定が締結できない場合に、2010シーズンはサラリーキャップが廃止になる。これは「労使協定の最終年はキャップなしとする」と定めてあったため。
現在の争点は「総収入の何%を選手の取り分(つまりサラリーキャップ総額)にするか」であり、「廃止か継続か」では無い。