こ難しい本の読書開始

あらためて、何ともいい文章ではないかと思う。

月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春立る霞の空に白川の関こえんと、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて、取もの手につかず。もゝ引の破をつゞり、笠の緒付かえて、三里に灸すゆるより、松島の月先心にかゝりて、住る方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、
 草の戸も住替る代ぞひなの家
面八句を庵の柱に懸置。

ドナルドキーンの著書、「百代の過客」を読んでいる。受験のとき以来で読む、奥の細道の序文は簡素な文章だけれども、情景が浮かぶようで、美しい。そして、ドナルドキーンさんの自身の文章も美しくて、またハッとさせられる気づきが散りばめられている。例えば、これ。

例えば散りゆく桜の花に関する和歌の評価は、歌舞伎役者による名高い役柄の解釈、またピアニストによるベートーヴェンの、有名なソナタの鑑賞をすることににているのである。

これは、奥の細道の特徴について語ったものだが、日本人の美的感覚を言い得ているのではないかと思う。今月の上旬に日本に移住することを決めて来日した氏だが、このような人がいると言うのは、日本人として嬉しいことだ。